リウスRius、逝く:メキシコの大衆漫画家

  • 2017.08.12 Saturday
  • 01:37

先日、メキシコからリウスがなくなったという知らせを受けた。

わたしの『物象化論と資本パワー』の表紙に、彼が描いたマルクスの漫画を使うことを許諾してくれた。

 

何度か、メキシコにいた時、リウスの家に招かれて行ったことがある。

温和な、とてもいい人だ。

彼は、民衆に、知的な漫画をまさに「カリカチュア」として描き続けた。それが、世界で、思想家の漫画を多々描かせることに派生した。彼が、最初に開いた世界である。

彼の家に招かれて行ったことで一番印象に残っているのは、フランシスコ・ジュリアンがブラジルから亡命していて、彼と会った日だ。農民運動の指導者である。

ジュリアンは、農民が武器=銃を持った時には堕落する、農民の手段は、農具であり、道端の石でしかない。ブラジルの軍事独裁に対して闘うのは、それでしかないと、静かに確信をもって語った。そして、パウロ・フレイレに彼が会ったのは、刑務所のトイレで隣同士になった時だけだが、いいやつだった、と互いに軍事独裁に民衆の立場から闘った二人である。

わたしは、まだ迷っていた時だったから、このわずかながらの会話が、自分の指針を決める大きなインパクトになったので、記憶に鮮明に残っている。あとは、たわいもない団欒をしていただけだが、愉しい1日であった。1976年ごろである。

小田実がメキシコに来て、誰か合わせろというので、リウスに合わせたが、影響力がある人物に合わせろ、というその不遜な態度に呆れ果てた。勝手に探せとわたしは放り出したが、日本の知識人のダメさの典型をみた。

当時、メキシコには、チリのピノチェット軍事独裁からの亡命者も流れて来ており、祖国へ帰ろうとしている人たちの静かな闘いがなされていた時でもある。腕のあちこちに拷問でのタバコの火傷がある女性亡命者は、それ以上のことを語ろうとはしない。レストランや道端で、ラテン・フォークの歌を歌い、祖国への支援を訴える若者たちがいた。ラテンアメリカは揺れていたが、ゲリラ闘争や農民闘争、そして亡命者たちの闘いなどがあったにせよ、平和な日々の方が圧倒的に多いのだということを知らしめられた。生きるというエネルギーの基盤が、先進国の人間たちと全く違う。イリイチの考えが、実感的にわかって来た時である。メキシコ革命研究は、脇で、資料館へ通いながら地道になしていた。革命そのものが、間違いである確信が自らへはっきりとしていく。

ジーパンをはくかはかないかで、論争し会っているメキシコ人家族、アメリカ帝国主義を批判しながらコカ・コーラを美味しいと飲んでいる人たち、メキシコ・シティのソカロへ、裸足で数日間歩いて(バスになど乗らない)抗議デモしているインディオたち、路上の交通違反の取り締まりで袖の下を稼ぐ警察官たち、それらは、無秩序ではない、全く違う秩序と混乱であるが、平穏な日々なのだ。

それが、改めてわかったのは、資生堂のイベントでハノイへ連れられていき、ベトナム美術館・歴史観を見た時、そこには破壊されてしまって何も残っていない、身体に刻み込まれた記憶から美術を再興するという画家たちを見た時。また、ずっとあとだが、ソ連崩壊後に、ウクライナに降り立った時に、メキシコと同じような光景に出会った時。社会主義なるものが、全く間違いであることの言葉にならない実感とつながっていく。モスクワの赤の広場での兵士たちの横暴さ、そしてレーニン廟の後ろにある政治指導者たちの銅像で、スターリンの像だけがどう見ても一度破壊されながら作り直されており、一番花束がたくさん捧げられていた光景。スターリンが残存していることは、スターリン様式の異様な冷たい威圧的建築にはっきりと残っている。社会主義国が崩壊しても、スターリニズムは残滓している。

そんなことが、連なっていく初発が、リウスの家での出来事にある。わたしの社会主義批判、革命批判は、それなりに徹底した実証研究と言葉にならない海外での体験とから来ている。日本の社会イズム化ーーsocialismのイデオロギーなき日本の社会主義化=「安楽の全体主義化」を<Society>ismとわたしは概念化しているーーを嫌悪する根拠になっている。

植民地主義、帝国主義、そして社会主義もだが、それらがどんなに侵略して破壊しようが、そんなことにめげない民の力がある。

リウスは、そこを信じて漫画を描き続けて来た。

 

メキシコから送られて来たリウスの写真である。合掌。

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